公務員試験の参考書と勉強法-独学式-

公務員試験に独学で合格するための参考書と勉強法をまとめたブログ

憲法・民法・行政法

 

 

近年の公務員試験法律科目(憲法・民法・行政法)は、単純な通説解釈メインの出題傾向から考察問題・判例問題主体の出題傾向に変化しつつあります。
ex) 問題文で学説と事案が紹介され、その事案を学説により検討すると、どういう結論に至るかなどの問題
この変化の背景には、テキトーな勉強をしている人ではなく、深い理解や思考力を元に考える事のできる人材を国が求めているということがあります。
よって機械的に暗記する事は避け、しっかりと理解する事を心がけましょう。
この記事でも、深い理解が身につく参考書と勉強法を解説します。
 
※法律科目を勉強する前に
紙媒体の物を買う必要はないですが
六法をこまめに確認すると理解が深まります。
Kageshima「e六法」
 

はじめに:スー過去と導入本の役割

 
スー過去とは実務教育出版さんが出している
こちらの参考書です。
公務員試験は、各界の専門家が集まる問題作成委員会によって作られています。その問題作成委員会が毎年ほぼ同じメンバーから構成されているという理由や、試験の正答率の調整という理由から、試験の問題には一定の傾向があります。同じく出題の傾向が偏っている大学入試センター試験を経験した事がある人ならわかるでしょうが、一定の傾向がある試験を対策するのに最も有効な手段は、過去問を解く事です
よって、公務員試験も過去問をひたすら解く事が重要な訳ですが、もちろん知識が全くない状態で問題を解いても意味がありません。ではどうすればよいのかというと、基礎知識を学んでから過去問を解けば良いのです。
具体的なプロセスとしては、独学の場合同科目の過去問のみを集めて編集された問題集である『スー過去』か『クイマス』を使って勉強するのが基本となります。
『スー過去』『クイマス』は分野ごとに別れていて、それぞれの分野が①レジュメ②過去問③解説の3本立てで構成されています。レジュメの部分では対象科目の1分野についての基礎知識がまとめられていて、過去問の部分では、過去問から抽出されたその分野の問題がまとめられています。つまり、上記で述べた基礎知識の勉強→過去問というプロセスを1冊で実現しているわけです
私も、こうした優良テキストであるスー過去をメインに専門科目を勉強しましたが、経験上このテキストに記載されている事を全て理解してしまえば及第点は余裕で取れます。ただし、レジュメページは各分野毎の要点をまとめた簡素な内容になっているので、深い理解が必要な法律科目の勉強では、導入から勉強(他の説明が丁寧なテキストでさらなる基礎から勉強)するのが一般的です。(=つまり、①導入本→②導入本理解→③スー過去の順に段階を踏んで勉強していくということ。)
本記事でも、この段階を踏む方法を前提として
勉強法を検討していきます。
勉強の手順をまとめると、以下のようになります。
f:id:dokugakukoumuin:20170214140803j:image
※メインテキストとしてクイマスも有名ですが、
私としては、教養科目=クイマス・専門科目=スー過去
が相応しいと考えています。詳しくは↓へ
 
参照:スー過去・クイマスの内容

www.dokugaku-koumuin.com

 

 

憲法の参考書と勉強法

 

憲法の概要とコツ

憲法とは、国家の役割を定め国の権力に縛りをかけるもので、立憲主義の考え方に基けば、私たち国民を守るためのものです。

また、国家の役割やその機関を定めていることもあり、そのもとで働く公務員を採用する試験では大体出題されます。

 

こうした重要科目である憲法の試験は、主に条文に関する判例や通説から出題されます。

 

たとえば最も有名な憲法の9条は↓

第九条  日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権のやな発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。


○2  前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 
  1. 「国権の発動たる戦争」とは何を意味するのか
  2. 自衛隊は、「戦力」に該当するのか
といった事が論点となり、aやbに関する通説や個々の訴訟事件の判例などを学びます。
 
コツとしては、条文の意味が曖昧である以上、具体的な事案に基づく判例を中心に勉強をし、理解を深める事です。
では、具体的な勉強法と参考書へ
 

憲法の勉強手順①:導入本で基礎を理解

憲法は法律科目であるため、上記のスー過去の項で述べたように導入本→スー過去のステップで勉強するのが基本です。

法律科目の参考書については、なるべく新しいものを用いるようにしましょう。例えば憲法でも、近年非嫡出子の遺産相続・男女の離婚後の婚姻禁止期間などで違憲判決が出ており、公務員試験においてこれら新しい違憲判決が出題される可能性は十二分にあります。
オススメの導入本としては、最近改訂されて講師による解説動画も公開されている『ザ・ベストプラス』
著者は予備校の講師であり、予備校で行う授業内容とほぼ等しいものを本にしたようです。
YouTubeにて、本の内容をテーマ毎に解説しているのが独学者には非常に便利
というか、ビデオ講義の予備校も多くあるのだから、動画を無料で配信してしまうのでは損になるのでは?と思ってしまう程度におトク

憲法の導入は省いてもok?

上記で述べたように憲法も導入本から勉強するのが基本なのですが、憲法の場合は中学の公民や高校の政治経済・現代社会などでそれなりに基礎を勉強してきた人も多いと思うので、いきなりスー過去から始める自信のある方(レジュメのみで事足りる方)は導入を省いてしまって良いと思います。少し復習したいというなら、スー過去と同じ実務教育出版から出されている、20日シリーズやスピード解説シリーズでサラッと基礎を抑えてしまうのもアリでしょう。

憲法の勉強手順②:スー過去で演習

導入本が終わったら、スー過去で過去問を解きながら演習を繰り返しましょう。公務員試験はアウトプットがとても大切。

スー過去の解き方については個別記事も設けました↓
 
参照:スー過去の解き方・使い方

www.dokugaku-koumuin.com

 

 

憲法の勉強手順②+α:スー過去とともに判例集

 

憲法の出題傾向として特徴的なのは、半分以上が判例から出題される事です。
そこで、スー過去に+αで以下判例集を用いて
の勉強を推奨します。
スー過去に判例の年月日が書いてあるため、後ろの索引から簡単に該当ページを開く事ができます。
判例百選では、憲法学の中で有名な判例が
  1. 経緯(事案の具体的な展開)
  2. 判旨(裁判官による判決と簡単な理由)
  3. 解説(著者グループによる解説)
と3本立てでまとめられています。
インターネットで判例の年月日や経緯などを調べても、堅苦しい漢字ばかりの判決文しか出てこなくて、事案の具体的なイメージが湧きにくいのに対して、判例百選では試験で必要な知識がわかりやすくもれなく記載されています。
公務員試験では判例集について語られる事があまりありませんが、法学部の学生が新しい科目を勉強する際にはテキストと共に必ず買うものです。
近年難化が進み、先に述べたように従来の簡単な条文解釈や通説解釈から判例や考察重視の出題傾向に移ってきているので、判例対策の有無は大きな点数の差を生み出しています。
よって、判例集を用いて勉強しましょう。
 
※スー過去は判例を紹介していますが、事案の流れや判決の理由を解説するというよりは、理解している前提で、確認するための内容になっています。
公務員試験用の判例集としては、1冊にまとまっているこちらの必修判例も人気な本。
ただ、私としては公務員試験用に拘る必要は
ないと考えています。
なぜなら、判例集は通読するものではなく参照するものであるため、不要な部分は触れなければよく、足りないのが一番困るからです。
 

憲法の参考書まとめ

導入本→スー過去・判例集

 

民法の参考書と勉強法

 

民法の概要とコツ

民法は、私法の一般法で実体法であると言われる通り、私人(国や国際間でなく一般人)同士の権利・義務関係を定めた基本法(特別法と対立する概念)であります。

よって、私たちの生活一般を司る大切な法であり、人々の生活環境をより良いものにするために働く、公務員を採用する試験では重要科目の扱いを受けています。

こうした科目である民法を勉強する際のコツは、分からない所が出てきても挫折せず、何回も導入本を回して民法独特の考え方に慣れる事です。 

というのも、民法は私たちの基本的なルールを定めてると一概にいっても、

  1. 物に関する権利義務関係
  2. 家族に関する権利義務関係
  3. 契約に関する権利義務関係

など多くのルールを定めているため、全てを勉強したところでようやく全体像を掴める科目であるのです。

たとえば、契約に関する権利義務関係として、

  • 売買のルール   を勉強したところで、
  • 売買する「物に関する」ルール

を学ばなければ売買についての確固たる理解を得ることはできません

さらに複雑な事をいえば、

  • 売買を行なったのが未成年であった場合
  • 売買する物に担保が設定されていた場合

はそれぞれ制限行為能力者制度・担保物権といった別のルールも絡んでくるわけです。

このようにものすごく複雑に色々な事が絡んでくることから、民法を途中で諦める人は多いのですが、ルールはとても明瞭であります。

コツコツ勉強をしていって、全てのルールが分かってしまえば点数は意外と安定しますし、出題数も多いですから得点源にもなります。

分からないルールが出てきても、「まだ勉強してないんだから当たり前だ」と割り切り、少しずつ勉強をすすめていきましょう。

 

民法の勉強手順①:『伊藤真の民法入門』を導入本として読む

公務員試験の民法は、最近になるまで単純な暗記問題が多く、法律科目の中でも特に暗記がメインの科目として捉えられていました。

しかし、近年の民法は公務員試験の難化傾向を受け、考察・学説問題まで出題されるようになるなど暗記だけでは点を取りにくくなってきています。

こうした変化を踏まえると、ただ単に要件や効果を暗記するだけではなく、正確に理解をした上で多くの問題を解きながら民法的な考え方を身につけていく必要があります。

よって、きちんと導入本をやり大枠を掴んでからスー過去で演習を繰り返しましょう。

民法の導入本について、TACの出しているまる生という参考書もあり、ネット上ではオススメ参考書として紹介されている事が多いように思いますが、

郷原豊茂の民法まるごと講義生中継〈1〉総則・物権編 第6版 (公務員試験 まるごと講義生中継シリーズ)

郷原豊茂の民法まるごと講義生中継〈2〉債権編 第5版 (公務員試験 まるごと講義生中継シリーズ)

 

私はあまりオススメしません。
やはり、民法に関しては先に述べたように全体像を掴むのが何よりも重要なので、導入本は簡単に一周する事ができる、コンパクトかつ簡潔な参考書がベストです。
その点、2冊にまたがってしまうのいうのはやはり全体を俯瞰する上でかなりの労力が必要となってしまいます。
よって私は、こちら伊藤真氏の『民法入門』を導入本とする事をオススメします
この本は民法という取っ付きにくい科目の全体像を、誰でも分かる日常用語や例を用いて<1冊で>簡潔に解説するとともに、各項目の繋がりが分かるよう参照ページを設け立体的に把握する事を可能にしています。
民法は上記で述べた通り、総則・物件・担保物権・債権・家族法など各分野の繋がりや関係を把握するのに時間がかかり、繋がりを把握をしたところでようやく全体的像を掴める科目であるので、立体的に把握できるように書かれていてなおかつ簡潔に書かれている『民法入門』はオススメできます
全体像を掴むのが重要であるため、『民法入門』を参照ページに何度も飛んだらしながら、ひたすら周回しましょう。
 
ちなみに、導入本の役割は各科目の全体像をつかむ事にあるので、学問として確立している法律や経済に関しては公務員試験用のものにこだわる必要はないというのが持論です。
一応伊藤真氏は、予備校の講師として公務員試験対策の指導をしているのですが、どうしても公務員試験に特化した参考書が良いなら、スー過去の著者によるスピード解説シリーズがオススメ。
ページ数も少ないですし、スー過去の著者によって編集されているので、スー過去に繋ぐことが想定されていて、スムーズに勉強を進めることが可能です。

民法の勉強手順②:スー過去で演習

民法も基本テキスト・演習テキストはスー過去でキマリ!
譲渡担保・条件期限など細かい分野もレジュメ+問題の形式で網羅している上、過去20年程度の試験別出題頻度も記載されているので、足りない分野もなく志望先によっては細かい分野は飛ばす事ができます。

民法と判例集

民法に判例集は不要です。判例や事案が問題として出題される事はほぼありません。

 

民法の参考書まとめ

伊藤真の民法入門 →スー過去

 

行政法の参考書と勉強法

 

行政法の概要とコツ

 

行政法とは憲法や民法のように特定の法律ではなく、行政(国)に関する様々なルール・慣習・学説などを総称した科目です。

例えば、行政が行う行為にはどのようなものがあるのかを体系的に考えたり(特許・許可・禁止など) 、国家賠償などの行政訴訟はどのような場合に問題となりはたまたどのような手続きで行われるのかといった事を学びます。他にも、学説上の分類や国家賠償の判例など扱う範囲は膨大です。

そのためとても範囲の広い科目であり、かつ内容も曖昧で理解しにくいです。

 

コツとしては、行政法も民法と同じようにまずは全体像を掴むことです。というのも、例えば行政行為として飲食店に営業停止命令などの措置が行われた場合、行政の観点からみれば行政行為の内容が論点となりますが、営業停止命令を受けたお店側からみればそれは行政訴訟の1つである取消訴訟を行うか否かという論点になるわけです。

つまり全体像を掴まなければ深い理解を得ることができないのです。

全体像を掴んだら、次は判例を中心に具体例とセットで勉強をする事も大事です。「行政法」という法律がない以上、試験の勉強では学説や慣習など争いが多く曖昧な論点を学んだりするため、それらを深く理解するのに判例は重要な指標となるのです。具体的に判例がどう指標となるのか確認してみましょう。例えば、有名な判例として非番警察官強盗殺人事件があります。

この事件は、お金に困った警察官が、非番であった日に制服を着用して管轄外の地区で通行人を呼びとめ、所持品検査をし、反抗する通行人を発砲し殺害したあげく金品を強盗したという事件です。

この事件が行政法上問題になるのは、 この警察官の行為が国家賠償1条の「職務を行うについて」に当たるか否かという点です。

第一条  国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

判決は結局、管轄外でも非番でも外形上職務を行なっていたように見えるのだから国家賠償の対象となると下されました。

条文も無論大切ですが、このように具体例である判例とセットで勉強することも、判例問題で点を稼いだり記憶を深いものにするために重要といえるでしょう。

 

行政法の勉強手順①:『行政法入門』で大枠から理解!

 

行政法は、上記で述べたように内容がアバウトであるためとっつきにくい科目です。

まずは導入本で大枠を掴みましょう。

導入本として他サイトでは、こちらもまる生を用いる事が推奨されていますが、使用した感想としてまる生はおすすめできません。

 私は、行政法のプロ中のプロである藤田氏(旧最高裁判事)が行政法の入門者向けに書いた『行政法入門』をおすすめします。

 

行政法入門の良い点をあげると、説明が丁寧な上、具体例が豊富で理解しやすいところです。

たとえば普通の行政法の参考書では、「行政庁とは、みずからの名で行政主体のために意思決定し、対外的にこれを表示する権限を法令上与えられている行政機関のことをいう」なんて書いてあります。

こういう説明は、わからない人からするとさっぱり意味不明ですよね。
 
これに対し、『行政法入門』の著者:藤田氏は租税債務の具体例を用いて手を抜く事なく丁寧に説明しています。
私たちは、国に対して税金を納めなければならないこととされているわけですが、これを法律学的ないい方でいいかえてみると、結局、国が私たち国民に対して国税を徴収する権利を持っているということになるわけです。
ところで、この場合、この権利は誰の権利かというと、それは当然、法人格をもち、権利義務の主体であることを法律上認められている「行政主体」としての国だということになります。
ところが、実際の法律の上では、国民に対して現実に税金を強制的に徴収したりするのは、国そのものではなくて、単なるその一機関であるにすぎない税務署長の任務とされているのです。実際、課税処分や納税の督促などは「○○税務署長」という名前でなされています。この場合の税務署長の立場がまさに「行政庁」だ、ということになります。 
※引用 藤田宙靖「行政法入門」p25
 
こういう具体例が多く説明に手を抜かないところが『行政法入門』のいいところです。
行政法入門と検索して一番トップにに出てくるくらいの良書です。
ただし、『行政法入門』は具体例が多い事もありページ数が少し多いです。よって、
  1. ページ数が多いのに抵抗がある方
  2. サクッと導入を済ませたい方
などは、民法の項でオススメした伊藤真氏の書いてあるこちらの本か、憲法の項でオススメした寺本氏の本を用いましょう。寺本氏の『ベスト・プラス』は、憲法と同じく本の内容に関して無料の解説動画がYouTubeにあげられています。

行政法の勉強手順②:『ケースブック行政法』で判例を学ぶ

行政法は、憲法と同じく判例が非常に重要です。先ほども述べたように指標となり、記憶を深いものにするために判例は必須なのです。

 
スー過去にも判例の一部抜粋や年月日などは少し載っていますが、概要や判旨までは載ってないので、こちらの判例集を用いる事を推奨します。
 

憲法の判例集と違う!と思った人もいるかと思いますが、行政法はケースブックの方が質が高く※(地裁や高裁の判例までカバー)一冊にまとまっているので使いやすいです。

藤田氏の『行政法入門』は具体例として本の中で判例を紹介している事も多いので、逐一ケースブックを参照し理解を深めましょう。

※行政法の百選が昔から改訂されていないという事情もあります

 

行政法の勉強手順③:スー過去!改訂版クイマスでもOK

何度も言いますが、行政法は大枠から理解するのがコツです。

スー過去は暗記用ではなく確認用や演習用に。
最低でも『行政法入門』を3周はまわしてから
スー過去を解きましょう。知らない判例が出るたびにケースブックを参照するのも忘れずに。
 
私は演習テキストとしてスー過去を推奨しますが、2016年4月に行政不服審査法が改正されたため、不安であれば最新の論点が載ってある改訂版クイマスの方が良いかもしれません。
 
詳しくは↓にまとめました。
 

行政法の参考書まとめ

行政法入門(藤田) or 伊藤真の行政法入門 → スー過去・ケースブック

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